ランニングを始めてから、私自身もいくつか怪我を経験しました。

右内転筋の肉離れ。
その状態で出てしまった初フルマラソン。
最近では左内転筋まわりの痛み。
さらに、膝の外側、大腿前面、足裏など、痛みの場所が日によって変わることもあります。

ランニングは健康に良い運動です。
特別な道具がなくても始められますし、体力づくり、気分転換、生活習慣の改善にもつながります。

一方で、怪我が多いスポーツでもあります。

走ること自体はシンプルですが、同じ動作を何千回、何万回と繰り返します。
そのため、一回ごとの負荷は小さくても、積み重なることで筋肉・腱・関節に負担がかかります。

今回は、ランニングに関連する筋骨格系障害をまとめたシステマティックレビューを読みました。
本当は怪我の予防をまとめたものを読みたかったのですが、部位別の論文が多かったです。
その前にランニングの怪我の全体像を知りたいと考えこちらを選びました。

論文タイトルは、

A systematic review of running-related musculoskeletal injuries in runners

です。

Journal of Sport and Health Scienceに2021年に掲載されたレビュー論文です。

どんな研究か

この研究は、ランナーに起こる筋骨格系障害、つまりランニング関連障害が、どの部位に多いのか、どの病態が多いのかを整理したシステマティックレビューです。

対象となったのは、2020年6月までにPubMed、SPORTDiscus、MEDLINEで検索された研究です。
最終的に42本の研究が組み込まれました。

このレビューでは怪我を大きく2つの見方で整理しています。

1つは部位別です。
具体的には、

膝 / 足首 / 下腿 / 足部・足趾 / 股関節・鼠径部 / 大腿 / 腰

という分け方です。

もう1つは具体的な病名・病態別です。

膝蓋大腿疼痛症候群
シンスプリント (medial tibial stress syndrome)
足底腱膜炎
腸脛靭帯症候群
アキレス腱障害
足関節捻挫

といったものです。

この論文で大事なのは、発生率と有病率を分けて見ている点です。

発生率は、一定期間の中で新しく起こった怪我です。
これは主に前向き研究から評価されています。

一方、有病率は、ある集団の中でどのくらいその怪我があるか、または過去に経験されているかです。
これは後ろ向き研究や横断研究から評価されています。

この2つは似ているようで違います。

新しく起こりやすい怪我と、長く残りやすい怪我は、必ずしも同じではありません。

ランナーの怪我はかなり多い

このレビューでは、全体の怪我の発生率は平均40.2%、有病率は平均44.6%でした。
かなり高い数字です。

研究ごとに対象者、怪我の定義、追跡期間が違うため、この数字をそのまま全てのランナーに当てはめることはできません。
それでもランニングを続けている人にとって怪我はかなり身近な問題だと言えそうです。

私自身もランニングを始める前は、

「走っていれば自然に体が強くなる」

くらいに思っていました。

でも実際には走るだけでは強くならない部分があります。
むしろ弱いところや使えていないところに負担が集中して、怪我として表に出てくることがあります。

怪我が多い部位はどこか

非ウルトラマラソンランナーでは、怪我が多い部位は主に膝 / 足首 / 下腿 / 足部・足趾でした。

発生率で見ると、最も多かったのは膝で26.2%、次いで足首19.0%、下腿16.6%、足部・足趾13.5%でした。
有病率で見ても、膝31.2%、下腿20.1%、足部・足趾14.4%、足首13.3%と、膝から下に多くの怪我が集中しています。

膝足首下腿足部・足趾
新規発生率26.2%19.0%16.6%13.5%
有病率31.2%13.3%20.1%14.4%

この論文では、非ウルトラマラソンランナーの怪我の多くが、膝またはそれより下の部位に起きていることが示されています。

ランナーとしては非常に納得できる結果です。

ランニングでは、着地のたびに膝、下腿、足首、足部が衝撃を受けます。

しかも、それが1回だけではありません。
1kmでおよそ数百歩から千歩以上。
10km走れば1万回前後。
フルマラソンなら何万回です。

小さな負荷でも、繰り返されれば大きな負担になります。

多い病態は何か

非ウルトラマラソンランナーで、前向き研究から見た発生割合が高かった病態は、頻度順に、

  1. アキレス腱障害 10.3%
  2. シンスプリント 9.4%
  3. 膝蓋大腿疼痛症候群 6.3%
  4. 足底腱膜炎 6.1%
  5. 足関節捻挫 5.8%

でした。

一方、有病率で見ると、

  1. 膝蓋大腿疼痛症候群 16.7%
  2. シンスプリント 9.1%
  3. 足底腱膜炎 7.9%
  4. 腸脛靭帯症候群 7.9%
  5. アキレス腱障害 6.6%

が多い病態でした。

発生率と有病率で少し順位が違います。
たとえば、足関節捻挫は発生率では上位に入っていますが、有病率では上位5つには入っていません。

論文では、足関節捻挫は後ろ向き研究では記憶に残りにくい、あるいは重症度によっては報告されにくい可能性があると考察されています。

一方、膝蓋大腿疼痛症候群、シンスプリント、足底腱膜炎、腸脛靭帯症候群、アキレス腱障害などは、ランナーが長く悩まされやすい病態なのかもしれません。

7割以上はオーバーユース

このレビューでは、ランニング関連障害の70%以上がオーバーユースに関連していると述べられています。

私はランニングを始める以前は、ランナーの怪我とは転倒や捻挫のような急性外傷を想像していました。
しかし実際には、多くは一回の大きな事故ではなく、日々の小さな負荷の積み重ねで起こります。

私自身の怪我でも、

少し痛いけれど走れる。
違和感はあるけれど予定通り走る。
疲労が残っているけれどポイント練習をする。
痛みが引いたので、すぐ元の練習に戻す。

ということを続けた結果、右内転筋が最初に負荷に耐えきれなくなりました。

つまり、突然の出来事のように見えても、実際にはその前から負荷が積み重なっていたのだと思います。

私の内転筋の怪我は多い怪我なのか

個人的に気になったのは内転筋の怪我がどのくらい多いのかです。

このレビューでは、非ウルトラマラソンランナーにおける内転筋損傷の有病割合は0.6%と示されています。
つまり、膝蓋大腿疼痛症候群やシンスプリント、足底腱膜炎、アキレス腱障害などと比べると、かなり少ない怪我です。

私の場合、右内転筋の肉離れを経験し、その後も左内転筋まわりの痛みを繰り返しています。
ランナー全体で見ると、内転筋は主たる怪我の部位ではないのかもしれませんが、私にとっては重要な弱点です。

ここから考えたのは、怪我予防には2つの視点が必要だということです。

1つは、ランナー全体で多い怪我を知ること。
膝 / 足首 / 下腿 / 足部 / アキレス腱 / 足底 / 腸脛靭帯
これらは、多くのランナーにとって注意すべき場所です。

もう1つは、自分自身が怪我しやすい場所を知ることです。
私の場合は内転筋、股関節まわり、臀筋、TFL、腸脛靭帯周囲です。
全体では頻度が高くないですが、何度も起きているため自分にとっては重要課題です。

頻度の高いところを故障から守りつつ、自分の弱点もカバーできているのが理想ですね。

怪我予防にどう活かすか

この論文は、特定の予防法の効果を検証した研究ではありません。

そのため、

「このトレーニングをすれば怪我が減る」

という答えを直接教えてくれる論文ではありません。
ただし、どこに怪我が多いのかを知ることで、予防の優先順位は考えやすくなります。

このレビューの結論では、膝、特に膝蓋大腿疼痛症候群、そして足首・アキレス腱障害に対する予防策を考えることが重要だと述べられています。

まあ、当たり前の結論ですね。

部位別の怪我予防についての論文は意外と多くありました。
今後、私の怪我に合うものがあれば、そちらも読んでみたいと思います。

この研究の限界

このレビューは、多くの研究をまとめた価値のある論文です。
しかしいくつかび限界があります。

まず、組み込まれた研究のデザイン、対象ランナー、怪我の定義、追跡期間がかなり異なります。

怪我の定義も研究によって違います。
たとえば、練習を休む必要があったものを怪我とするのか、痛みがあれば怪我とするのかで、怪我の数は変わります。
論文でも、怪我の定義によって発生率が大きく変わることが問題として述べられています。

また、病名別のデータは限られており、自己申告による怪我も含まれています。

そのためこの論文は「ランナーの怪我はどのあたりに多いのか」を大づかみするためのものになりそうです。

ランナーとしての受け止め方

この論文は怪我を経験していない人や、怪我で長期離脱をした経験がない人は興味がわかないかもしれません。
怪我予防の必要性が身に迫ったものとして感じられないとは思います。

でも本当は、走れているときこそ怪我予防を考える必要があります。

膝、足首、下腿、足部。これらは多くのランナーが痛めやすい場所です。
それに加えて、自分が繰り返し痛める場所を把握する。
私なら内転筋と股関節まわりです。

そして、その部位に負荷が集中しないように、練習量、強度、フォーム、シューズ、補強、休養を調整するのが重要だと思います。

私個人の怪我とリハビリの経験では、ケアや補強について考える際には、

「痛みを軽視しない」
「その痛みの原因はそこにはない」

という考えかたが重要だと思いっています。
これについては、いずれ部位別の記事を書くときに述べたいと思います。

まとめ

今回のシステマティックレビューでは、ランニング関連筋骨格系障害がどの部位に多いのか、どの病態が多いのかが整理されていました。

全体として、ランナーの怪我はかなり多く、発生率は平均40.2%、有病率は平均44.6%でした。

非ウルトラマラソンランナーでは、怪我は膝、足首、下腿、足部・足趾に多く、膝またはそれより下に集中していました。

病態としては、アキレス腱障害、シンスプリント、膝蓋大腿疼痛症候群、足底腱膜炎、足関節捻挫などが多く見られました。

この論文は、具体的な予防法を検証したものではありません。
しかし、どこを怪我しやすいのかを知ることは、予防の第一歩になります。

多くのランナーに共通する弱点を知る。
自分自身の弱点も知る。
痛みが出てからではなく、走れているうちに対策する。

この積み重ねが、長く走り続けるためには大事なのだと思います。

今後は部位別の予防についての研究も読んでみたいと思います。
まずは多くのランナーが悩みそうな「膝」でしょうか。

みなさんは、ランニングでどこを痛めた経験がありますか。
膝、足首、足底、アキレス腱、内転筋。
自分の弱点を知ることが、怪我予防の第一歩かもしれません。

参考文献

A systematic review of running-related musculoskeletal injuries in runners.
J Sport Health Sci. 2021 Sep;10(5):513-522. doi: 10.1016/j.jshs.2021.04.001. Epub 2021 Apr 20.PMID: 33862272
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8500811