最近、NMNという成分をよく目にするようになりました。

「アンチエイジング」
「疲労回復」
「美容」
「若返り」

こういう言葉と一緒に紹介されることが多い印象です。
ではランナーにとってはどうなのでしょうか。
NMNを飲めばランニング能力が上がったり、疲れにくくなったりするのでしょうか。

今回はNMNと運動トレーニングを組み合わせた研究を読んでみました。
対象はアマチュアランナーです。私たち市民ランナーには気になる内容です。

結論から言うと、「NMNを飲めば速くなる」「NMNで疲労回復する」とは言えません。
一方で、なかなか面白い結果も出ています。

・VO₂max(最大酸素摂取量)は上がらなかったが、
・換気性閾値に関する指標が改善していた

以下、研究をわかりやすく解説していきます。

NMNとは?

NMNはニコチンアミドモノヌクレオチドの略です。

体内でNAD⁺という物質に変換される前駆体として知られています。
NAD⁺は、エネルギー代謝、ミトコンドリア機能、DNA修復、酸化ストレス、炎症、サーチュイン経路(細胞の老化制御に関連する)などに関わるとされています。

このあたりから、NMNはアンチエイジングや健康寿命の文脈で注目されるようになりました。

しかし実際に人の体でどのような効果があるのかは、別に評価が必要です。
ランニング能力や疲労回復に対する効果はまだ十分に分かっていません。

研究の概要:アマチュアランナーで、運動 vs 運動+NMN摂取を比較

この研究は、健康なアマチュアランナー48名を対象にしたランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。

対象者は、中国・広州のランニングチームに所属する市民ランナーでした。
年齢は27〜50歳
男性40名、女性8名
運動歴は1〜5年

参加者は4つのグループに分けられました。
・プラセボ群
・NMN 300 mg/日群
・NMN 600 mg/日群
・NMN 1200 mg/日群

それぞれ6週間、NMNまたはプラセボを摂取しました。
全員が同じ期間、運動トレーニングも行っています。
内容は週5〜6回で1回40〜60分。
ランニングが週3〜4回、自転車が週2回です。

大きく分けると、「運動だけの群 vs 運動にNMNを追加した群」を比較した研究と考えると分かりやすいです。

何をどのように評価したのか

評価には、心肺運動負荷試験(CPET: Cardiopulmonary Exercise Test)が使われています。
CPETではエアロバイクやトレッドミルで追い込む運動を行います。
この研究ではトレッドミルではなく、自転車エルゴメーターで測定がされました。
ランナーなのにランニングで測定されていないのは気になります。

測定された主な項目は、VO₂max、最大パワー、O₂ pulse、VT1、VT2などです。

結果の理解に必要な用語を簡単に解説します。
・VO₂maxは最大酸素摂取量です。持久力の代表的な指標としてよく使われます。
・VT1とVT2は換気性閾値(Ventilatory Threshold)の略語です。
 VT1は、第1換気性閾値。
 VT2は、第2換気性閾値、または呼吸性代償点とも呼ばれるようです。

ランナーにはLT1、LT2 (Lactate Threshold)という言葉の方がなじみがあるかもしれません。
LT1・LT2は血中乳酸濃度から見た閾値です。
VT1・VT2は呼気中の酸素(O2)、二酸化炭素(CO2)、つまり呼吸の変化から見た閾値です。

測っているものが違いますが、
運動強度の区切りとしてはVT1はLT1に近く、VT2はLT2に近い概念と言えそうです。

VT1・VT2やO₂ pulseについては、もう少し詳しく知りたい方だけ読めるように補足しました。
簡単に言えば、今回の研究で改善したVT1は「楽に使える有酸素領域の上限」に近い指標です。
一方、O₂ pulseは「心臓1拍あたりの酸素摂取量」に関係する指標ですが、心臓だけでなく筋肉側の酸素取り込みにも影響されます。

測定項目のもう少し詳しい解説

 VT1とは何か

VT1は、運動強度を上げていったときに、呼吸のパターンが最初に変わり始めるポイントです。
簡単に言うと楽な有酸素運動から、少し呼吸が増え始める境目です。

運動強度が上がると筋肉で乳酸産生が増え、同時にH⁺、つまり酸性化に関係する負荷も増えてきます。
このH⁺は、体内の重炭酸(HCO3)によって緩衝されます。
その過程で、追加のCO₂が発生します。

すると、VCO₂(二酸化炭素の排出量)がVO₂に対して不釣り合いに増え始めます。
これがVT1付近で起きる大事な変化です。

ことばで簡単に表現すると、
体内で乳酸の産生があっても、呼吸を増やしすぎない範囲で、二酸化炭素を吐き出して対応し始める境界です。
一回一回の呼吸での換気量(はき出す空気の量)はそれほど増えず、呼吸回数も少ししか増えないまま、呼気中の二酸化炭素の濃度が高くなり始めます。

ランナーの感覚では、
「まだ会話はできる」
「でも完全に楽なジョグではなくなってきた」
「少し集中しないと維持できない」

くらいの強度で、少し速めの有酸素走というところだと思います。

 VT2とは何か

VT2は、さらに強度が上がったところで出てくる呼吸の変化です。

VT1からさらに運動強度が上がると、乳酸産生やH⁺負荷がさらに増えます。
乳酸や酸性化への対応が必要になり、呼吸回数を増やして二酸化炭素を多く吐き出して補正しようとする境界です。さらに、一回の呼吸換気量も大きくなるので、結果として呼気中の二酸化炭素の濃度は低くなり始めます。

ランナーの感覚では、
「かなりきつい」
「でもしばらくは粘れる」
「テンポ走や閾値走に近い」

という領域だと思います。

O2 pulseとは何か

O₂ pulseは、酸素摂取量(VO2)を心拍数で割った指標です。

式で書くと、

  O₂ pulse = VO₂ / 心拍数

つまり心臓が1回拍動するごとに、どれくらい酸素を取り込めているかを表す指標です。

次に、酸素の濃度差から酸素摂取量(VO2)は、

  VO₂ = 心拍出量 × 動静脈酸素較差

動静脈酸素較差は、心臓から拍出された動脈血の酸素量と、筋肉を含めた末梢組織や臓器に酸素を渡したあとに心臓に戻る血液=静脈血の酸素量の差です。

また、心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数 なので、

  VO₂ = 1回拍出量 × 心拍数 × 動静脈酸素較差

となります。
これを心拍数で割ると、

  VO₂ / 心拍数 = 1回拍出量 × 動静脈酸素較差

になります。

つまり、

  O₂ pulse ≒ 1回拍出量 × 動静脈酸素較差

と考えることができます。

つまりO₂ pulseは、心臓が1回の拍動でどれくらい血液を送り出しているか。
そして、その血液から筋肉がどれくらい酸素を取り出しているか。
この2つを合わせたような指標です。

ただし、このO2 pulseは、どちらかというと前者の「1回拍出量」の代用指標のように使われているようです。

研究結果

結果1:体重や体脂肪は変わらなかった

4つのグループで体重、BMI、除脂肪量、体脂肪率には明らかな変化はありませんでした。
ここに期待していた人には残念な結果ですが、体型には影響を与えませんでした。

結果2:VO₂maxも変わらなかった

次に、多くのランナーが気になるVO₂maxです。

この研究では、NMNを摂取しても、プラセボ群と比べてVO₂maxの明らかな上乗せ効果はありませんでした。
したがって、この研究ではNMNで最大酸素摂取量が上がったとは言えません。
O2 pulseやピークパワーも変わりませんでした。

結果3:VT1関連指標は改善した

一方で、こちらは面白い結果です。

NMN 600 mg/日群と1200 mg/日群では、プラセボ群と比べて、VT1に関する指標がより大きく改善していました。
具体的には、VT1時点での酸素摂取量(VO2)、VO₂maxに対する割合、パワー(Mets: metabolic equivalents)などです。

VO₂maxは変わっていないが、VT1時点での酸素摂取量(VO2)は改善している。
つまり、最大能力そのものが上がったというより、比較的楽に維持できる有酸素領域の上限が上がった可能性がある
という解釈ができると思います。

ただし繰り返しになりますが、この研究では実際のランニングペースを測っているわけではありません。
あくまで自転車エルゴメーターでのCPET上の話です。

それでもVT1、すなわちLT1に近い閾値が改善したという点は、市民ランナーにとっては興味深い結果だと思います。

結果4:高用量ではVT2時点のパワーも改善

1200 mg/日群では、VT2時点のパワーも改善していました。

VT2はVT1よりも高強度の領域です。
ランナーでいえば、テンポ走、閾値走、10km〜ハーフマラソンのレースペースに近い強度と関連する領域です。
ただし、この研究のメインの結果はVT1関連指標の改善だと思います。

副作用について

この研究では、6週間の介入中に明らかな有害事象は報告されていません。
また、運動負荷試験中の心電図にも明らかな異常はなかったとされています。

ただし前提として、少数の健康なアマチュアランナーの短期間の研究ですので、もっと長期間飲んだ場合、高齢者や持病のある人が摂取した場合、普段から他に薬を飲んでいる人の場合、などの安全性にまで言及できるものではありません。

著者らの考察

本論文の著者は、NMNの効果を以下のように考察しています。

NMNは、心臓機能(中枢側)ではなく、骨格筋(末梢側)での酸素利用能力を改善させたと考えられる

(VO2maxやO2 pulseが改善していなかったことを考慮)

この研究の限界

この研究は興味深い結果が得られていますが、限界も多いです。

まず対象者が48名と少人数です。各群は12名ずつです。
女性は全体で8名しかいません。各群2名。そのため、性別による違いは評価できません。

次に、介入期間の6週間というのはランニング能力、疲労回復、体組成、アンチエイジング、美容効果などを評価するには短いです。

さらに重要なのは、対象者はランナーなのに、CPETはトレッドミルではなく自転車エルゴメーターで行われていることです。
ランナーを対象にするなら、本来はトレッドミルで評価した方がよかったかもしれません。
自転車でVT1やVT2が改善したとしても、そのままランニングペースの改善につながるとは限りません。
したがって、NMNでレースタイムが良くなるかどうかはわからないということです。

さらに、疲労回復も直接は評価されていません。
筋肉痛、主観的疲労、睡眠、回復感、翌日のコンディションなどは調べられていません。
つまり、NMNで疲労回復が早くなるかどうかもわからないです。

市民ランナーとして評価・期待すること

この研究を市民ランナー目線で読むと、「試しにNMNを使ってみてもいいかな?」と感じました。

実際のランニング感覚では、
「以前より楽に走れるペースが上がる」
「呼吸や心拍を上げすぎずに走れる範囲が広がる」
「長めの距離で余裕を保ちやすくなる」

こういう変化を感じられる可能性を示しているようにも読めます。

個人的にNMNに期待したいこと

・5〜8kmのペース走や10kmのレースなどでいつもより余裕が感じられるかもしれない
・結果として、より速いペース、高い強度に練習をシフトできるようになりそう
・最終的な結果としてVO2maxの改善にまでつながるかも

VO2maxについては鍛錬が必要だと思います。鍛錬による中枢側すなわち心肺機能の改善です。
NMNは、その鍛錬の底上げに役立つかもしれません。

より正確なデータに基づいた結果を出そうとすると、今後はもっと大規模で、トレッドミルや実際のランニングタイムなどで評価した研究が必要だと思います。

まとめ 

NMNは、アンチエイジングや疲労回復、美容効果などで注目されています。
今回はそのNMNがランニングにどのような影響があるのかに興味があり、読んでみた論文を紹介しました。

この研究で示されたのは、6週間の運動トレーニングにNMNを組み合わせることで、VT1などの換気性閾値関連指標が改善する可能性です。
一方で、VO₂max、最大パワー、体重、体脂肪率には明らかな上乗せ効果はありませんでした。

簡単にまとめると、

NMNで最大能力が上がったわけではないが、運動中に比較的楽に使える有酸素領域が広がる可能性を示した研究

というものだと思います。

みなさんは、NMNのサプリメントを使ったことはありますか?
ランニングの疲労回復やパフォーマンス目的で、何か実感のあったものがあればぜひ教えてください。

参考文献

Nicotinamide mononucleotide supplementation enhances aerobic capacity in amateur runners: a randomized, double-blind study. J Int Soc Sports Nutr. 2021 Jul 8;18:54.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8265078/

ところで、この論文を読んでから15kmくらいの距離でビルドアップ走をしてみると、自分の呼吸の変化を感じながら、「今のペースからVT1くらいかな」、「VT2の境界を超えたな」など考えるようになりました。
LT1やLT2よりは体感で理解できそうなところは利点かと思います。
今後、練習強度の調整に役立つかもしれません。

理屈だけで考えると、ペースを徐々に上げるうちに、

 LT1 → VT1 → LT2 → VT2

の順に移行していくのだと思います。